年金の繰下げについて

年金の繰下げとは

公的年金は65歳で受給開始年齢になります。65歳で開始する公的年金を66歳以降に受給を開始することを「年金り繰下げ」と言います。年金の繰下げをするには、年金の受け取り手続きをしないだけです。
ただ増額して受給できるのは66歳からで、繰下げ受給が出来るのは、1年以上先になります。ただ自分が66歳未満で配偶者が亡くなり遺族年金の受給権が発生すると、繰下げ増額はできません。

一方、公的年金を「貯蓄」と考える人がいます。「いつ死ぬかわからないから、早くもらったほうが得だ」という考え方で、年金を繰上げ受給する人がいます。この繰上げ受給は年金を減らしてしまう可能性があります。
公的年金は終身の年金です。長生きすればするほど受給年数が増え、受け取り総額も多くなりますが、自分がいつまで生きるかは誰にもわかりません。
「早く死んだらモトがとれないのでは?」と考えたり「毎月支払った年金の保険料は回収できるの?」と考える人が身近にいるかもしれません。
「納めた保険料以上に年金をもらわないと損するのでは」と考えているなら、それは公的年金の認識が誤っています。

公的年金は「長生きリスク」に備える保険と考えるべきで、公的年金の本質は「貯蓄」ではなく「保険」なのです。ここでは公的年金の繰下げについて記述していきます。

年金を繰下げすると

年金の受給開始日を遅らせることを「繰下げ」と言います。

繰下げ後の年金は、1ヶ月毎に「0.7%」ずつ、年金の受取額が増加します。75歳まで繰り下げると、最大84%の増加となります。老齢基礎年金に付加年金が上乗せされる場合は、同じ割合で増加します。

一方で繰下げた期間の受給額をまとめて受け取ることもできます。例えば5年間年金を受け取らずに、増えた年金を受け取るつもりであったが、何らかの事情が生じて、お金が必要になったため、受け取らなかった5年間の年金をまとめて受け取ることもできます。

ただ年金の請求は5年以上前の年金が時効により受給できません。扱いとしては請求の5年前に繰下げ受給の請求があったものとみなして増額された年金を一括で受け取ることができるようになっています。

また年金を繰り下げると家族手当に当たる加給年金がもらえないことにもご注意ください。

加給年金とは会社員または公務員であった第2号被保険者が受給年齢の65歳になった時点で、65歳未満の妻または18歳未満の子がいるときに支給される年金です。年金の家族手当と言われる理由です。専業主婦家庭なら夫が65歳になって妻が65歳になるまでの間は年間40.81万円(2024年4月以降の支給額)もらえますが、厚生年金の繰り下げ期間中はそれがもらえなくなります。

もう一つ考慮すべき条件に「66歳未満で配偶者が亡くなり遺族年金の受給権が発生すれば、繰り下げ増額はできない」という点があります。

年金繰下げをするときに検討すること

年金の繰下げは75歳までの最大10年間可能です。受給自体は繰下げを開始して1年間経過すれば、いつでも年金の受給手続きをすることが出来ます。

年金の繰下げにあたっては、「いつまで繰下げをするのか」を考えることが大事です。
そのためには、自分が65歳から受給する年金の累計額を、繰下げして受給する年金の累計額がいつ超すかを知るのが、第一歩になります。

一般的に繰下げによる受給開始年齢の12~13年後に、65歳から受給を開始した年金受給者の累計額を追い越します。これが年金繰下げの損益分岐点になります。この場合に検討すべきポイントは受給開始年齢の13年後が何歳に何歳になるかと言う点です。

自分の生涯を何歳までと想定して検討することです。現在の平均寿命や平均余命は何歳なのか?健康寿命は何歳なのか?あるいは自分の近親者(曾祖父母、祖父母等)がいくつで亡くなったのか?等々です。

なお日本人男性の平均寿命は79.64年、女性の平均寿命は86.39年とされています。

「平均寿命と平均余命」(厚生労働省)

このようなことは、いくら検討しても正しい結論は出ないものですが、想定をおくことによって検討がしやすくなります。

場合によっては、繰下げ後の年齢から13年は生きるだろうという感覚的なものでも良いかもしれません。

次に考えるべきは、繰下げする期間の収入をどのように確保するかです。

繰下げる年齢まで、働いて生活する収入が確保されているのであれば問題はありませんが、60歳で定年を迎え、仮に70歳まで繰下げようと考えるのであれば、5年間の収入をどうするかがポイントとなります。65歳までは再雇用となって、ある程度の収入が確保できるのであれば、不足する年収をどうするかを検討することになります。

このような場合、退職金は60歳で支給されることが多いですので、年金を繰り下げている間の生活費を退職金で賄うという案も考えられます。年金を繰り下げている間は年金を受け取れません。仕事をやめれば給料もなくなったり、再雇用等で減少した給料の分を定年時に受け取った退職金を充てることもできます。

年金の繰り下げは65歳からの年金の受け取りを遅らせることで受給額が増える仕組みですが。66歳以降、1カ月遅らせるごとに年金額は0・7%ずつ増えます。70歳時点で42%増、75歳時点だと84%増となります。増えた年金額は終身で受け取れます。

退職金を元手に資産運用を、と言う方もいますが、株式や投資信託などのリスクがある投資よりも、66歳以降、1カ月遅らせるごとに0・7%ずつ増える年金をを増やす方が確実な運用と言えますので、選択肢のひとつとして検討してはいかがでしょうか。

なお検討材料としては以下のようなことが視点の一つとなります。

想定する寿命(男性の場合)年金受給額が最も高くなる繰下げ年齢
81歳68歳
87歳72歳

なお年金の繰下げが最も有利になる年齢を平均寿命から算出した結果は、男性は68歳、女性は72歳という結果になりました。ただ寿命は個人差が大きくなりますので、あくまでも目安ということになります。

年金を何歳から受給を開始するかについては慎重に検討してみてください。

出典
厚生労働省 令和2年簡易生命表
日本年金機構 老齢年金ガイド

税金・社会保険が年金から天引きされます

※年金繰下げに当たって考えておくべきこととして、天引きされものがある点です。天引きされるものとしては以下のものがあります。
・所得税
・住民税
・介護保険料
・国民健康保険料(後期高齢者医療保険料)

税金や健康保険、介護保険の保険料は所得に応じて適用されることらなるため、受給する年金の額が上がれば、保険料が高くなる可能性があります。

【年金から天引きされるもの】
・所得税
・住民税
・介護保険料
・国民健康保険料(後期高齢者医療保険料)

年金から天引きされるものに、税金と国民健康保険、介護保険などがあります。税金や健康保険、介護保険の保険料は受給する年金の額が上がれば、高くなることになります。したがって年金の受給額が高くなると、適用される税金や健康保険料は高くなることになります。

年金の見込み額と実際に受け取る金額は、異なるのが一般的であると考えておく必要があります。

<資料>
No.1600 公的年金等の課税関係|国税庁
年金からの所得税の天引きについて説明しています。 

総務省|地方税制度|公的年金からの特別徴収
年金からの住民税の天引きについて説明しています。

年金から介護保険料・国民健康保険料(税)・後期高齢者医療保険料・住民税および森林環境税を特別徴収されるのはどのような人ですか。|日本年金機構
年金からの介護保険料、国民健康保険料、後期高齢者医療保険料の天引きについて説明しています。

家計への影響

年金の繰下げにより受給額が増加し年収が増えた場合、以下のような点を把握しておく必要があります。

介護保険や後期高齢者医療保険、国民健康保険では、収入が一定額を超えると現役並み所得者として、保険料の増加や、保険使用時の自己負担割合が高くなったりします。

現役並み所得者は医療費の自己負担割合が1割から3割に増加する可能性があります。医療費の負担が大幅に増えると年金の増額効果が無くなってしまうかもしれまん。繰り下げにより、負担がどのくらい増えるのかについてきちんと確認しておきましょう。

遺族年金への影響

年金を受け取っている配偶者が亡くなった場合に、条件によって遺族年金が支給されます。ここでは遺族厚生年金について記述します。

【遺族厚生年金受給の条件】
遺族厚生年金は、遺族厚生年金の受給していた人が亡くなった場合に、亡くなった人によって生計を維持されていた「遺族」が受け取れる年金です。
遺族が複数いる場合は、「妻」「子」「夫」「父母」「孫」「祖父母」の順で最も優先順位の高い人が受け取れます。それぞれ受給できる期間が定められており、異なります。受け取れる年金額は原則、亡くなった人の「老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」です。

【遺族厚生年金の受給額】
老齢年金を繰り下げた人が亡くなった場合の遺族厚生年金の受給額は、繰下げ前の65歳から受け取る額を基に算出されます。原則、老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額が基準となります。
繰下げをして年金受給額が増えても、遺族年金を計算する基準は65歳時点での支給額となり、繰下げ後の配偶者の受給額が基準となる訳ではないので注意しましょう。

まとめ

年金の繰下げをするに当たっては、まずは「損益分岐点」の確認をしましょう。繰下げ後の年金受給累計額が、いつ(何歳で)65歳からの年金受給累計額を超えるかを確認することがポイントです。
損益分岐点年齢を確認すると、何歳まで生きることで損益分岐点を超えて繰下げた甲斐があるのか。何歳まで生きる前提でライフプランを作るか。人生を考えることが最も大事です。

年金の繰上げ・繰下げの損益分岐点を確認するエクセル

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